この記事の移植です。

科学するミックスボイス 1: 解剖生理学|moniはじめに 「ミックスボイス (mixed voice) ってどうやったら習得できるの?」と AI に聞くと、「TA 筋と CT 筋のバランス」と「フォーマントチューニング」が必要と返答されました。しかし筆者はド理系のため、何故これらが必要なのかという理論が確立されないとボイストレーニングに身が入らないのです。そこでこれらがどのように作用するのかを調べてみると想像以上に奥が深く、自分の中で一貫した理論を築いた頃には執筆できる程度の調査量となっていました。従ってこの記事には「自分で自分を納得させる」というモチベーションが背景にあります。 第 1 章では声を出す原理や仕組みを解剖学およびnote(ノート)

はじめに

「ミックスボイス (mixed voice) ってどうやったら習得できるの?」と AI に聞くと、「TA 筋と CT 筋のバランス」と「フォーマントチューニング」が必要と返答されました。しかし筆者はド理系のため、何故これらが必要なのかという理論が確立されないとボイストレーニングに身が入らないのです。そこでこれらがどのように作用するのかを調べてみると想像以上に奥が深く、自分の中で一貫した理論を築いた頃には執筆できる程度の調査量となっていました。従ってこの記事には「自分で自分を納得させる」というモチベーションが背景にあります。

第 1 章では声を出す原理や仕組みを解剖学および生理学の観点から理解し、第 2, 3 章にて発声を物理モデルとして数理的に解釈することを目標としています。

科学するミックスボイス 2. TA筋とCT筋この記事の移植です。 第 2 章では TA 筋と CT 筋が及ぼす声の周波数および声質について論じます。第 1 章を読んでいない方は先にご覧ください。 この章では大学 1 年程度の数学を扱います。使うのは常微分方程式と行列計算くらいなので…moni's page 科学するミックスボイス 3. フォーマントチューニングこの記事の移植です。 最終章である本章では、フォーマントと声の周波数がどのように歌いやすさに影響するのか、および声道の変化がどのようにフォーマントを変化させるかを数理的に解釈していきます。第 2 章とは独立していますが、第 1 章を読んで…moni's page

免責事項 (Disclaimer)

この連載記事、特に物理モデルによるアプローチはほぼ全てが LLM (主に Gemini 3.1 Pro と Claude Opus 4.6) の出力に基づくものであり、論理展開の整合性を筆者がチェックして纏めたものになります。発声学 (vocology) と呼ばれるこの分野は研究者 Ingo Titze を祖とする学問ですが、1994 年に出版された彼の著書「Principles of Voice Production」は絶版のようで、価格がハチャメチャに高騰しており手が出ませんでした。

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筆者は数学科専攻であり物理学の知見に乏しいため、偏微分方程式の導出の礎となっている物理法則を深くは理解しておりません。また筆者は普段から LLM とのやりとりを全て英語で行なっております。これは LLM に言語による性能差があるからだけでなく、Wikipedia の説明画像が英語だったり、YouTube でトレーニング法を調べるときなど言語に縛られず調査できるよう関連用語を英語で覚えるようにしているからです。そのため不自然な日本語を含む場合があり、無理矢理日本語に変換した箇所には元の英語を記載しております。最後に、専門書を 1 冊も読まずに執筆しており、LLM によるハルシネーションを正しいと誤認している可能性が多分にあるため、有識者によるご指摘は大歓迎です。

1. 声の原理

1-1. 音波 (Acoustic wave)

音は空気の圧力の変化が波として伝播する現象です。ただし、音波は縦波 (longitudinal wave, 疎密波とも) と呼ばれる種類のもので、波と言われて一般的に想像する水面波とは異なるものです。スリンキーというおもちゃを横にした状態で机に置き、前後に動かしたときに密な部分と疎な部分が先の方へと伝わっていく様子を想像するとわかりやすいと Gemini に教わりました。高校物理で習ったはずなのですが、理系には珍しく物理があまり好きではなかった私は完全に頭から抜け落ちていました。

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1-2. 空間座標設定

以降で登場する首周辺の軟骨や筋肉の配置を理解する際に私は Google 画像検索を駆使していたのですが、立体的な身体の仕組みを、どの向きから映したものなのか初見ではわからない平面画像で解釈するのに非常に苦労したため、先に空間の座標軸を導入します。あと著作権の関係上 Wikipedia の画像を引用していますが、画像によってはわかりやすいとは限らないため Google で画像検索してもらったほうが理解の助けになると思います。

直立した人間を想定し、声門を原点とします。人間の目線、つまり前方を yy 軸正とし、右側を xx 軸正、鉛直上向きを zz 軸正とする右手系の座標を導入します。

1-3. 声帯 (Vocal folds/cords)

この空気圧の波を生み出すノズルが声帯です。以下は声帯を上から見た画像で、画像右側が xx 軸正、画像上側が yy 軸正となっています。

"vocal cords"
"vocal cords"
vocal cords (Wikipedia より引用)

声が出る原理と併せて関連する生理学用語を記載しておきます。肺 (lungs) によって送られる空気が気管 (trachea/windpipe) を通り、声門 (glottis) にある声帯を振動させ空気圧の波が発生し、声道 (vocal tract) で反響した (resonate) 音が声として発声されます。

導入した座標系を元に説明すると、肺から送られる空気による圧力 (subglottal pressure) が声門に +z+z 方向にかかり、これにより左右の声帯がそれぞれ xx 軸方向に振動します。 zz 軸方向の圧力により xx 軸の運動が生まれるのは、以下の gif からもわかるように声帯は上下(zz 軸方向)に非対称性を持ち、先に下側の部分が開いてウェッジ(\wedge)の形になることで、空気力学 (aerodynamics) の働きによって左右に力が加わるらしいです。

"vocal folds in motion"
"vocal folds in motion"
The vocal folds in motion (Wikipedia より引用)

2. 解剖学 (Anatomy)

2-1. 軟骨 (Cartilage)

発声学において大切な軟骨が 3 つあります:

  • 甲状軟骨 (thyroid cartilage)
  • 披裂軟骨 (arytenoid cartilages)
  • 輪状軟骨 (cricoid cartilage)

甲状軟骨は喉仏周辺(従って yy 軸正)に位置する盾形の軟骨です。反対に披裂軟骨は喉仏の反対側、yy 軸負に位置する 2 つの小さなピラミッド形の軟骨です。輪状軟骨はその名の通り喉の周りに環状となっており、甲状軟骨および披裂軟骨の下側(zz 軸負)に位置しています。

"arythenoid cartilage"
"arythenoid cartilage"
arytenoid cartilage (Wikipedia より引用)

この画像は声帯を上から見た図のようで、我々の定義では画像左が xx 軸正、画像下が yy 軸正、そして手前の方向が zz 軸正となります。正直全然見やすくないと思うので、特にこの辺りはご自身で検索されたほうが良さそうです。

2-2. 筋肉

第 2 章のメイントピックである TA 筋 (thyroarytenoid muscle) と CT 筋 (cricothyroid muscle) のお話です。なぜ前節で軟骨の話をしたのかは、これらの筋肉の名前からも察するかと思います。TA 筋は甲状軟骨と披裂軟骨を繋ぐ筋肉、CT 筋は甲状軟骨と輪状軟骨を繋ぐ筋肉です。このうち TA 筋はわかりやすく、声帯の大部分を占めるヒダの部分です(前節の画像も参照ください)。甲状軟骨は yy 軸正、披裂軟骨は yy 軸負において左右に 1 つずつあるので、TA 筋は yy の正負を跨ぐように 2 本伸びています。

"thyroid cartilage"
"thyroid cartilage"
thyroid cartilage (Wikipedia より引用)

CT 筋は輪状軟骨の前方上部と、甲状軟骨の下部をアーチ状につなぐ筋肉です。従って TA 筋とは異なり、CT 筋は首の前方、つまり yy 軸正に位置しています。声帯とは直接関係のない筋肉のように見えますが、CT 筋が収縮する (contract) ことにより甲状軟骨が西洋甲冑の兜のバイザーのように yy 軸正、zz 軸負の方向へ傾き、声帯を縦に引き伸ばす働きをします。

これらの筋肉が何故重要なのかというと、チェストボイス (chest voice) は TA 筋が司る発声、ヘッドボイス (head voice) は CT 筋が司る発声であり、ミックスボイスとは TA 支配 (dominant) から CT 支配へ(またはその逆へ)滑らかに遷移する技術を指す言葉だからです。そしてこれらの筋肉は互いに相反する働きをするためバランスを取るのが難しいのです。TA 筋の収縮は声帯を太く短くするのに対して、CT 筋の収縮は声帯を細く長くします。私のような未熟なボーカルの場合、高音域を出すときに声帯が閉じた状態を維持するのを TA 筋の収縮に任せきり、維持できなくなったタイミングで TA 筋が全てを諦めて突然 CT 筋に仕事を押し付け、CT 筋は声帯を閉じることも適わずヘッドボイスではなく裏声 (falsetto) へと切り替わります。これが声が裏返る (voice crack) 原理です。これらの筋肉と声の高さおよび質の関係については第 2 章で論じます。

3. 生理学 (Physiology)

3-1. 音源フィルタ理論 (Source-Filter Theory)

声道 (vocal tract) とは、咽頭 (larynx)、口腔 (oral cavity)、鼻腔 (nasal cavity) など声門より上の音が反響する空間を指します。音源 (source) である声帯で作られた様々な周波数の音を、フィルター (filter) である声道が周波数に応じて増幅させたり減衰させたりしたものが発声されると考える理論を音源フィルタ理論 (Source-Filter Theory, by Gunnar Fant in 1960) と言います。この古典的な理論においては音源とフィルターは独立すると考えており、低〜中音域においては十分な説明力があります。

しかし高音域、特に換声点 (passaggio) あたりではこのモデルでは説明できない現象が発生し、声道の状態が声帯に影響を及ぼします。これを非線形音源-フィルタ結合もしくは相互作用 (non-linear source-filter coupling/interaction) と呼びます。ミックスボイスでは換声点におけるチェストボイスとヘッドボイスの切り替えが肝なので、この影響を深掘りする必要があります。

3-2. 非線形音源-フィルタ相互作用 (Non-linear Source-Filter Coupling)

この相互作用の主たる要因は、声道に満たされている空気が引き起こす空気力学によるものです。声道内の空気の振動によって生まれる局所的な真空が声帯を閉じる働きをすることで、声帯へと影響を及ぼします。音波の位相 (phase) と空気の位相の関係により、この真空による圧力 (supraglottal pressure) が発声閾値 (phonation threshold pressure, PTP, 声を出すために必要な最小の圧力) を上下させ、歌いやすくなったり歌いにくくなったりします。理想的な状態は音波が空気を先行する関係で、以下のような働きにより PTP を減らして楽に歌えるようになるようです:

  1. 声帯が開くタイミングでは声道の空気は質量のように振る舞い (inertance)、即座には上に動かずその場に止まります
  2. その後声帯が閉じるときには肺からの空気の流れは遮られます
  3. 一方で声道の空気は上昇し続けており、声門の真上に局所的な真空を生み出します
  4. この真空が吸引効果を起こして声帯を引き付け、声帯を閉じる手助けとして働きます

反対に空気が音波を先行する関係になると真逆のことが起こり、PTP が上昇します。如何にしてこの理想的な関係を保つことが力を抜いて歌う際に求められます。

3-3. フォーマント (Formants)

フォーマントとは声道で反響する周波数のことで、声帯で発生する音波の周波数とは無関係に、声道の形のみによって決まる値です。音源フィルタ理論においては声道が特定の周波数のみをフィルターすることで、特に口の形に応じて我々は母音を聞き分けていると論じられています。

フォーマントが重要なのは、前節の相互作用が歌いやすい方向に働くかどうかは、歌いたい音程の周波数とフォーマントの周波数の大小関係によって決まるからです。歌いたい音程を変えることはできませんが、フォーマントは声道の形を変化させることで調整することができ、相互作用をコントロールすることができます。これをフォーマントチューニング (formant tuning) と呼ぶのですが、母音修正 (vowel modification) と呼ばれるテクニックが最もよく使われ、YouTube でもこちらで検索した方がたくさんヒットします。2 つの周波数の関係については第 3 章で論じます。

おわりに

これで声を出す仕組みは一通り理解できたということにしましょう。ここからは物理モデルを使って数式をゴリゴリと変形していくパートへと突入します。私は執筆していてとても楽しく筆が乗っていましたが、皆さんにとっても楽しく読めるものであることを願っています。

第 2 章、第 3 章はそれぞれ独立した話なのでどちらを先に読んでも問題ありません。声が生まれる声帯について論じている第 2 章を読み、生まれた声が反響する声道について論じている第 3 章を読むのが自然な気もしますが、気の赴くままに読んでくださると幸いです。